右手だから「ミギー」である。人間ではないし性別も不明、宿主に寄生しなければ死んでしまうから半端な生き物だ。しかし極めて知的で戦闘能力も抜群。こんなに奇妙なヒーローも珍しいだろう。
ミギーに出会ったのは一五年以上も前で、私はアメリカに留学中だった。同じ大学に通う日本人学生の部屋で独特なタッチの絵が目にとまり、ふと手に取ってみたのがきっかけだ。読み始めてみると妙に引きこまれて、結局、帰国後も読み続けることになった。
もともとミギーの種族は、増え過ぎた人類を駆除するために誰かが発生させた生物らしい。いわば「天敵」だ。彼らは人間の頭を食べてから、そっくりの顔に擬態して肉体を操る。人間は知らないうちに寄生され、人格的には彼らと入れ替わっていくのである。
しかし中には頭を乗っ取るのに失敗して、やむなく肉体の他の部分に擬態するものもいた。その一匹がミギーだ。当然ながら宿主の人物とは葛藤が生じる。それは物語が進むにつれて、しばしば「人間対自然」という議論にもつながっていくようになる。
私が留学したのは、当時からエコロジー分野で流行り始めた「持続可能性」というテーマを研究するためだった。しかし学ぶにつれて失望が大きくなっていた。様々な理由はあるが、ここで詳しくは述べない。ただミギーが物語の終盤で吐いた言葉は、当時の私の気持を代弁している。
「わたしは恥ずかしげもなく『地球のために』と言う人間がきらいだ……なぜなら地球ははじめから泣きも笑いもしないからな」
今、聞いてもすかっとさせられる。しかし、なかなか大声では言えない。天敵ならではの台詞だ。(2006年12月9日付「読売新聞」夕刊)