ちょっとしたスリル

先日、誘惑に負けて、あることを始めてしまった。薬だとかギャンブルだとか、そういったことではない。しかし近い面もある。それは要するにインターネットの検索サイトへ行って、キーワードに私のペンネームや作品名を入力する、というだけのことだ。これは意外にスリルがある。

以前、本名で検索してみたときに引っかかってきたのは、私がノンフィクションの記事を書いた、とある英文雑誌のホームページだった。当たり前と言われればそれまでだが、いつの間にか知らないところに自分の名前が掲載されているのは、それだけでもけっこう気持ち悪いものである。

さて今回はペンネームと作品名だ。リストアップされてきたのは七件。その一つにアクセスしてみて、さっそく驚いた。まだ本が発売されて二週間くらいしか経っていないのに、もう誰かが書評を書いているではないか! どきどきして読んだが、幸いにも好意的な内容だった。こうなると、もうやめられない。リストされたホームページを次々と覗いていく。 不特定多数の人が意見交換などをする「掲示板」と呼ばれるサイトでも、私の本が取り上げられていた。ここでの評価も悪くはないようなので、ほっとする。面白かったのは、本を買った動機なども記されていたことだ。ある人は帯の推薦文につられて買ってしまったという。で、まだ読んでもいないのに、そんな衝動買いをしてしまったことを悔やんでいたりする。かと思えば推薦者の名前を見てやめた、なんていう人もいる。出版社にとっては、けっこう販促に役立つ情報なのかもしれない。

先の書評も、掲示板の書きこみも、全く一般の読者によるものである。だからよけい恐いし、面白くもある。これは例えばどこかの喫茶店で、隣のテーブルに居合わせた人たちが私や私の作品について論じているのを、偶然、聞いてしまったような感じだろうか。何となく後ろめたいが、耳をふさぐこともできない、奇妙な緊張感を伴う体験である。(「週刊小説」1999年12月10/24日号)

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